Scrapbox の社内導入
これは、Scrapbox Advent Calendar 2021 - Adventar 22 日目の記事です。
普段 豆蔵デベロッパーサイト では技術情報を中心に紹介しています。
ですが、本記事では技術情報そのものではなく、技術情報をどのように社内で共有・活用しているかについてご紹介します。
弊社豆蔵では、Nota社 による Scrapbox を社内公式ツールとして 2018 年 5 月に導入しました。
この記事を書いている 2022 年 1 月現在で、3 年 8 ヶ月が経過しています。
社員による Scrapbox の利用は着実に進んでおり、ページ数は 9,100 ページを超え、日々活発な技術的な議論や情報交換が行われています。
本記事では、下記についてご紹介します。
- どういった経緯で Scrapbox を全社導入したのか
- Scrapbox の社内導入にあたって苦労したところはどういったところだったのか
- その導入効果は実際どうだったのか
Scrapbox 導入の経緯
#2018 年当時、Know-How と Know-Who 共有において、弊社には以下の 3 つの課題がありました。
- 情報共有のマインド不足
- 社内の半端ないアウェイ感
- 社員にとってやりがいのある案件とのアンマッチ
以下、それぞれの課題について、詳しく説明します。
情報共有のマインド不足
#弊社社員は、技術に対する矜持を各々が持っています 。
しかし、1 人でもやれる、自分 1 人で課題は解決できるというマインドで仕事に取り組んでいるため、そもそも他の社員に様々な情報を共有するというモチベーションに乏しい状況でした。
弊社の設立当初から、社員個人間の繋がりは強いのですが、個人と組織との繋がりが弱かったのです。
昨今、クラウドネイティブが技術トレンドとなっています。そんな中、アーキテクトはアプリケーションのアーキテクチャのみならず、クラウドインフラのアーキテクチャも知っておく必要があります。
さらには、アジャイルといった開発プロセスはもちろん、DevOps に関する知見も求められ、1 人ですべての技術情報を掌握するのはますます困難な時代となってきました。
このような状況の中、それぞれの社員が持っている技術情報をどのように共有し、組織として質の高いアウトプットを出し続けるのかが 1 番の課題でした。
社内の半端ないアウェイ感
#2 つめの課題は、社員の帰属意識をどのようにして高めていくか、です。
現在は 95% の社員がリモートワークでお客さまを支援している状況です。しかし、2018 年当初は社外常駐のコンサルがほとんどでした。
そのような状況の中、社内活動や他のコンサルの案件状況がなかなか共有されていないこともあって、誰がどういった活動に取り組んでいるのかが分からず、本社に戻っても半端ないアウェイ感がありました。
このアウェイ感を打破するには、個人が持っている Know-How や Know-Who をまずは組織が吸い上げ、それを個人に適切な形で還元していく必要があると考えました。
社員にとってやりがいのある案件とのアンマッチ
#新卒や中途の社員も増え、そもそも各社員がどういった案件に {取り組みたいのか|やりきれるのか} という理解がマネージメント層に足りていませんでした。
このため、社員が取り組みたいことと、実際にアサインされる案件が一致していないことが時折発生するようになっていました。
解決策として Scrapbox を導入
#これらの課題を解決するため、Scrapbox を社内に導入することにしました。具体的には、以下の 3 つを Scrapbox で行いました。
- 提案中の案件をみられるようにした
- 案件の概要をみられるようにした
- 社内活動をみられるようにした
以下、それぞれの取り組みについてご紹介します。
提案中の案件をみられるようにした
#引き合い案件を社員がみられるようにしました。そして、どういった案件に自分が関わりたいかについて、社員が自ら発信できるようにすると共に、自分が取り組みたい案件に手を挙げられるようにしました。
案件の概要をみられるようにした
#誰が、いつ、どういった案件に関わり、どういった技術を適用したのかという情報(いわゆる Know-Who) を可視化しました。各案件のサマリー情報に加え、2019 年度からは案件の週報も集約させました。
社内活動をみられるようにした
#社内でどういった活動が行われているかを可視化しました。例えば、社内勉強会や Hackathon、豆寄席 のような社外向けのイベント、社員向けの講義・ワークショップ、各種検討会といった情報を共有するようにしました。
導入に当たって苦労した点
#これまで弊社では過去何度か、社内 SNS による情報共有の取り組みが行われていました。しかし、残念ながらすべてが失敗に終わっています。
そのような中、社員に Scrapbox の可能性を感じてもらい、情報共有を活性化していくためには、情報 (=ページ) 間の繋がり (Link) を作る必要があると強く感じました。
そのため、最初はとにかくページを作り、ページ同士の Link を作ってことに取り組んだのです。最初の 1 週間で 500 ページくらいは一人で作りきったと思います。
その中から、特に社員に見て欲しいページは Pin し、社員・プロジェクトなどよく作るページのテンプレートを作り、とにかく情報を Scrapbox へ放り込むように社員を「緩やかに」誘導していきました。
Scrapbox は元々自由なツールです。このツールで情報をアウトプットする上で、様々なルールを設け、社員にそのルールを強制するようなやり方は合いません。
Scrapbox という情報共有の場を用意し、社員個々人のアウトプットを自然発生させるような雰囲気を醸成していくことに最も気を遣いました。
導入の効果
#さて、導入の効果はどのようなものだったのでしょうか。以下、定性的な評価と、定量的な評価で分けて説明します。
定量的な効果
#定量的な効果としては、以下の図の通りです。
現在は社員全員が利用しており、月平均で 200 前後の新しいページが社員によって作られています。
10,000 PV/月以上ありますので、Scrapbox を覗いてみるという行動が習慣化しているのが分かります。
また、Link 数は 53,000 を超え、情報と情報の繋がりが、新たな価値を生み出しています。
定性的な効果
#さて、次に定性的な効果です。
以下、それぞれについて詳しく説明します。
Know-Who を把握できるようになった
#案件の概要をみられるようになったことで、誰がどういった案件に関与していて、どういった技術情報を知っている、といった情報を、マネージメント層など特定の誰かに聞かなくても分かるようになりました。
これにより、過去の類似案件に参画した社員から提案中の案件についてレビューを受けたり、支援中の案件において解決すべき課題が出てきたときに他社員からアドバイスを受けたりといったことが可能となっています。
社外からも社内活動状況が分かるようになった
#社内でどんな活動が行われているのかといった情報が可視化されたことで、いま組織がどんな課題を認識していて、それに対しどのような形で解決に取り組んでいるのかが分かるようになりました。
また、社員の活動が可視化されたこともあり、アジャイル勉強会が始まったり、パネルディスカッションが年末に行われたりと、社内活動そのものも活性化しています。
社員自ら能動的に動けるようになった
#引き合いのあった案件が社員に公開されていることで、社員自らが手を挙げ、提案活動に関与し、そのまま案件に参画するという新しい流れが生まれました。
案件が誰かにアサインされるのではなく、社員自らが取り組みたい案件に参画できるようになったのです。
これにより、以前よりモチベーション高く社員が案件に取り組めるようになりました。
まとめ
#新しい技術を習得するには、以下の 2 つが不可欠です。
- 体系的な情報のインプット
- 理解した情報のアウトプット
これまでご紹介してきたとおり、現在 Scrapbox が「社内における」アウトプットの場として機能し始めています。
そして、2021 年 12 月には、豆蔵デベロッパーサイト が「対外的な」アウトプットの場として生まれました。今後は「社内の Scrapbox から、豆蔵デベロッパーサイトへ」という技術情報の流れについても、取り組んでいきます。
様々な情報のアウトプットを通じ、デベロッパーの方々に情報提供させていただきつつ、我々社員の成長の場としても活用していければと考えています。