Deno を始める - 第2回 (外部ライブラリの利用)
前回は開発環境の構築を行い、Deno ランタイムの概要を見ました。
今回は、外部ライブラリの利用方法について見ていきます。
外部コードのインポート
#Linking to External Code | Manual | Deno
Deno はブラウザ上の JavaScript のように URL を指定してスクリプトを実行できます。
import { serve } from "https://deno.land/std@0.155.0/http/server.ts";
function handler(req: Request): Response {
return new Response("Hello, World!");
}
serve(handler);
インポートされたコードは、前回記事にも書いたように 環境変数 DENO_DIR
に対応するディレクトリにダウンロードされ、キャッシュされます。
上記のコードは Web サーバーを動かすので --allow-net
オプションが必要ですが、URL からのスクリプトインポートおよびキャッシュからのローディングに関しては、Deno ランタイムの特権モードで実行されるため、パーミッションを指定する必要はありません。
社内プロキシサーバ配下で開発している場合、環境変数 HTTP_PROXY
、HTTPS_PROXY
、NO_PROXY
を設定することで、インポートが可能です(Windows の場合は環境変数がなければレジストリの値を読み取ってくれます)。
GitHub や GitLab のプライベートリポジトリのモジュールをインポートする必要がある場合、環境変数 DENO_AUTH_TOKENS
にホスティングサービスで発行された認証トークンを設定することで、利用可能です。
Private Modules | Manual | Deno
インポートで、URL を直接指定する方式のため、同じライブラリを利用する複数のファイルがある場合、バージョンアップが煩雑になるなどの問題があります。これは、インポートを一つのファイルに集約し、再エクスポートすることで解決できます。
// deps.ts
export {
serve
} from "https://deno.land/std@0.155.0/http/server.ts";
利用側。
import { serve } from "./deps.ts";
vendor コマンドによる依存ライブラリのダウンロード
#利用しているコードがホストされているリモートのサーバーが変わったり、ダウンしたりしているするリスクに備えるため、deno vendor サブコマンドが用意されています。このコマンドは、プロジェクトのルートフォルダに vendor ディレクトリを作成し全ての依存関係のコードをダウンロードします(npm の node_modules に相当)。本番環境へのデプロイ時には、この構成を利用することになります。
https://deno.land/std@0.155.0/http/server.ts
をインポートしたコードで、deno vendor main.ts
を実行すると、以下のように vendor ディレクトリが生成されました。
├── main.ts
└── vendor
├── deno.land
│ └── std@0.155.0
│ ├── async
│ │ ├── abortable.ts
│ │ ├── deadline.ts
│ │ ├── debounce.ts
│ │ ├── deferred.ts
│ │ ├── delay.ts
│ │ ├── mod.ts
│ │ ├── mux_async_iterator.ts
│ │ ├── pool.ts
│ │ └── tee.ts
│ └── http
│ └── server.ts
└── import_map.json
ロックファイルによる検証
#利用している外部モジュールが変更されていないことを検証するためにロックファイルを使用することができます。--lock=lock.json
、--lock-write
オプション付きで deno cache
コマンドを実行し、ロックファイルを生成します。deps.ts ファイルにインポートをまとめている場合は以下のように実行します。
deno cache --lock=lock.json --lock-write deps.ts
生成される lock.json の例です。URL とハッシュが保存されます。
{
"https://deno.land/std@0.156.0/_util/assert.ts": "e94f2eb37cebd7f199952e242c77654e43333c1ac4c5c700e929ea3aa5489f74",
"https://deno.land/std@0.156.0/bytes/bytes_list.ts": "aba5e2369e77d426b10af1de0dcc4531acecec27f9b9056f4f7bfbf8ac147ab4",
"https://deno.land/std@0.156.0/bytes/equals.ts": "3c3558c3ae85526f84510aa2b48ab2ad7bdd899e2e0f5b7a8ffc85acb3a6043a",
"https://deno.land/std@0.156.0/bytes/mod.ts": "763f97d33051cc3f28af1a688dfe2830841192a9fea0cbaa55f927b49d49d0bf",
"https://deno.land/std@0.156.0/io/buffer.ts": "fae02290f52301c4e0188670e730cd902f9307fb732d79c4aa14ebdc82497289",
"https://deno.land/std@0.156.0/io/types.d.ts": "0cae3a62da7a37043661746c65c021058bae020b54e50c0e774916e5d4baee43",
"https://deno.land/std@0.156.0/streams/conversion.ts": "fc4eb76a14148c43f0b85e903a5a1526391aa40ed9434dc21e34f88304eb823e"
}
この lock.json をソースコードと共にリポジトリに commit / push します。
他の開発者は、プロジェクトをリポジトリから clone して、以下のように deno cache
を --reload
フラグ付きで実行することで、キャッシュリロード時に依存関係を検証できます。
deno cache --reload --lock=lock.json deps.ts
実行すると、再ダウンロードと検証が行われます。
Download https://deno.land/std@0.156.0/streams/conversion.ts
Download https://deno.land/std@0.156.0/io/buffer.ts
Download https://deno.land/std@0.156.0/_util/assert.ts
Download https://deno.land/std@0.156.0/bytes/bytes_list.ts
Download https://deno.land/std@0.156.0/bytes/mod.ts
Download https://deno.land/std@0.156.0/io/types.d.ts
Download https://deno.land/std@0.156.0/bytes/equals.ts
Node.js / npm との相互運用
#Deno v1.25 で npm パッケージの実験的サポートが追加されました。
リリースノートにあるように、express をインポートして利用できます。
import express from "npm:express";
const app = express();
app.get("/", function (req, res) {
res.send("Hello World");
});
app.listen(3000);
console.log("listening on http://localhost:3000/");
npmjs で公開されているパッケージは、上記のように npm:<パッケージ名>
というショートハンドが使用できます。
このコードを実行するには、--allow-net
、--allow-env
の他にカレントディレクトリの読み取りパーミッション(--allow-read
)が必要です。安定板ではないので、--unstable
フラグの指定も必要です。
deno run \
--allow-net --allow-env --allow-read=./ \
--unstable \
main.ts
実行すると、npm から依存パッケージをダウンロードして起動します。
Download https://registry.npmjs.org/express
Download https://registry.npmjs.org/accepts
Download https://registry.npmjs.org/array-flatten
Download https://registry.npmjs.org/body-parser
Download https://registry.npmjs.org/content-disposition
Download https://registry.npmjs.org/content-type
...
Download https://registry.npmjs.org/parseurl/-/parseurl-1.3.3.tgz
Download https://registry.npmjs.org/has-symbols/-/has-symbols-1.0.3.tgz
Download https://registry.npmjs.org/content-type/-/content-type-1.0.4.tgz
Download https://registry.npmjs.org/ms/-/ms-2.0.0.tgz
listening on http://localhost:3000/
Node 互換モードの利用
#Node Compatibility Mode | Manual | Deno
Node.js のプロジェクトで、Deno を --compat
フラグ付きで互換モードで動かす方法です。
2022/10/03 追記
--compat
フラグによる Node 互換モードは、Deno 1.25.2 で削除されました。今後は import だけがサポートされます。
次のようにサードパーティの npm パッケージを利用するプロジェクトで試しました。
package.json
{
"name": "node-sample-project",
"version": "1.0.0",
"main": "index.js",
"scripts": {
"start": "node index.js",
},
"type":"module",
"dependencies": {
"compare-versions": "^5.0.1"
}
}
スクリプトのコード。
import { compareVersions } from 'compare-versions';
console.log(compareVersions('11.1.1', '10.0.0'));
console.log(compareVersions('10.0.0', '10.0.0'));
console.log(compareVersions('10.0.0', '11.1.1'));
まずは npm スクリプトでの実行。
$ npm start
実行結果。
> node-sample-project@1.0.0 start
> node index.js
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次に Deno での実行。互換モードは安定版ではないため、--unstable
も必要です。
$ deno run \
--compat --unstable \
--allow-read --allow-write=./ --allow-env \
index.js
実行結果。std/node
の Node 互換モード用のライブラリのダウンロードが行われ、その後に実行されました。
Download https://deno.land/std@0.154.0/node/global.ts
Download https://deno.land/std@0.154.0/node/module.ts
Download https://deno.land/std@0.154.0/node/module_esm.ts
Download https://deno.land/std@0.154.0/node/upstream_modules.ts
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std/node ライブラリは、Node のビルトインモジュール用のポリフィルと、Deno でサポートしていない CommonJS 形式のモジュールのローディングなどをサポートする標準ライブラリです。
The std/node Library | Manual | Deno
実際には、あまりこういう使い方はしないと思われますが、Deno でバッチ処理を構成して、一部 Node.js のコードをまるっと動かしたいけど Node.js は入れたくないといったケースでは有効かもしれません。
Deno フレンドリーな CDN からのパッケージ取得
#Packages from CDNs | Manual | Deno
Deno フレンドリーな CDN から取得することにより npm パッケージを簡単に利用できる可能性が大きくなるとされています。CDN は npm での公開方法に関係なく、パッケージとモジュールを (Deno がサポートする) ES Module 形式として提供します。また、モジュールの依存関係解決を CDN に委ねられるのもメリットです。多くの場合、パッケージの型定義が提供されており型チェックに利用できます。
マニュアルでは、Deno フレンドリーな CDN として、esm.sh / Skypack.dev が紹介されています。
Import Maps の利用
#Deno はブラウザでのモジュール解決に使用される Web プラットフォーム標準 Import Maps を利用できます。Deno のパッケージ解決にも利用できますし、Node コードと Deno を連携させるのにも利用できます。
GitHub - WICG/import-maps: How to control the behavior of JavaScript imports
Deno は拡張子を含む完全修飾されたモジュールのみをローディングしますが、Import Maps を使うと、コード上は完全修飾されたインポート宣言を簡略化できます。
import_map.json の例。
{
"imports": {
"lodash": "https://cdn.skypack.dev/lodash",
"add": "./add.ts"
}
}
コード上のインポート宣言。
import lodash from "lodash";
import { add } from "add";
実行するには、--import-map
オプションを使用します。
deno run --import-map ./import_map.json example.ts
Node.js では拡張子を解決するための機構を組み込んでおり、これはローカルファイルシステムのアクセス権を要求してしまうので Deno では採用されませんでした。
まとめ
#今回は、Deno から外部ライブラリを利用する方法について紹介しました。開発体験のよさと、本番稼働時の堅牢性がうまく両立されている印象です。npm サポートも正式リリースされれば、既存のライブラリをうまく活かして生産性を上げることができそうです (個人的には npm を利用しないオプションを選択したいとは思いますが)。
次回は Deno のユースケースとして、JSX と DOM による SSR(Server side rendering) について見ていきたいと思います。